第34話   殿    平成15年09月10日


今日は港内の二歳場で珍しく長尺物のハエ竿で二歳釣の鶴岡の釣り人に出会った。生憎の小雨の中での釣で、エビを使い錘なしの完全フカセである。竿を見ると振り出し竿ではあるが、見るからに軟らかい竿であった。コマセを打ち、魚の棚を探って当りを待つが、ウグイ(マルタ)の当りしか来ない。

しばらく見ていると「俺は団子釣は嫌いだ!」と云う。「俺は団子釣をしている人の近くには絶対に行かない。折角魚が岸に寄ってきているのに皆沖に追いやってしまっている。今日は雨が降ってきたから、誰も来ないからゆっくりと釣れる。」とのたまう。「其れは結構ですね」と僕。「僕もどちらかと云うと団子釣をしてますけど沖側では釣りません。片手握りの小さな団子で中通しを使ってやってますので・・・」と云った。「二歳、三歳を釣るのに何が中通しか!俺のは殿様の釣で延竿だ」と。「そう云うあなたの竿は、延べ竿ではなく振り出しの竿じゃありませんか?」とは云いそびれた。

実際「継竿」、「振り出し竿」は延竿とは云わないのであるが、最近は中通し竿以外は皆延べ竿と勘違いしているようだ。しかし、お年寄りに注意するのも大人気ない。ただ、延べ竿=殿様の釣と思い完全フカセの伝統釣法を誇りにして使っている人は鶴岡の釣師でも少なくなって来た。鶴岡の釣師でも団子釣に転向している人が多くなった。延べ竿は、車で運べないし、かなり大きな乗用車でもより小さい篠子鯛釣が出来る1間半がやっとだ。二歳はともかくとして三歳を釣るのはどうしても2間〜21尺は欲しい。しかし、久しぶりの見事な完全フカセ釣法に雨が降っているのに傘もささずに我慢してしばらく見ていた。エビの尻尾を切り、竿+バカを二尋はとっていた。風は余り強くなかったので思うポイントに投げ入れられている。潮の流れを計算に入れコマセは初め少し遠くに入れ、次にポイントに正確に打つ。流石自慢するだけあって、手馴れた物だと感心する。其のうち雨足がだんだん強くなってきたので、車に逃げる。最近見た鶴岡のお年寄りの中では、この人が一番上手な打ち込みをしていた。見るだけでも価値がある。こう云った人たちは、竿に当りの出ない小物釣なんかでは糸ふけに出る微かな当りで魚を釣る技術も持っている。たいした物である。

こうしたお年寄りの技術を小物釣りにだけでも延べ竿完全フカセの伝統釣法を残したいと思えた。この次の釣行には久しぶりに竿掛の奥から庄内竿を出して来て潮風に当らせようかと思った今日一日であった。